野宿、二日目、水戸。

二時間しか眠れなかったのである。徹夜明けにも関わらず、一日中走り回って、交感神経がオフに切り替わらなくなってしまった。無駄に思考はクリアだが、いつまでもクリアではない。むしろクリアになった分だけ問題が直視される。銭湯の閉店時間は午前一時。締め出されてしまう。
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定食を食べたりして寝れるかと思ったが、ただただ獅子唐がおいしいだけであった。観念して、サウナと水風呂を行き来するやつをやる。これはよくマリファナ的な多幸感であると言うけれど、徹夜明けにマリファナなんかやっちゃダメだ。徹夜明けでなくてもダメです。
ゴロゴロしながらじっと天井を眺めたり、日付が変わって同じ映像を何度も垂れ流すようになった地方局の番組を眺めたり、気がつくと館内放送に蛍が光る。
どうしようもないのである。
限界まで走ってみよう。


霧が出ていた。うつむいた街灯の視線が円柱状にぼやけて橙、彼らは等間隔でバイパスの傍らに立ちつくしている。
寝付けないとはいえ休んではいたから、多少は行けそうである。夜走るのはいい。見えない路面は怖いけれど、雑に表現すれば雰囲気がある。無理にやるよりはそれでいい。
24時間営業のリサイクルショップとかを横目に過ぎる。暗闇に看板がぼうっと光る。人の影はなく、生き物の影もなく、ただ連なるトラックだけが積み荷を運ぶ。追い抜かれて後ろ姿を見送る。少なくとも九割のトラックには運転手がいるだろう。残りは知らぬ。
途中、どうにも動けなくなって、ほどよいうつむき加減の街灯に寄りかかる。潰れたラーメン屋の前で安っぽいメロンソーダを飲んだりする。
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夜の街道の定義そのものみたくなっていたが、どう考えても水戸までは届かない。朝まで走り続けるのも厳しいだろう。この二日間で三時間しか眠ってない。出発前日に徹夜なんかするからいけない。

ひとまず牛久のあたりに西友があったのでそこを目指す。霧はドンドコ深まっていく。満月さえけむったくなって古い硬貨のように見える。
どうにかこうにかたどり着いた西友で半額の焼き鳥にアルコールと、安かったからズボンとポロシャツも買って、近くにある公園に行く。野宿である。
シングルベッドくらいのベンチがあって、薄目に宵闇の助けを借りればすのこベッドに見えなくもない。ストロングなゼロを飲み干せば、やはりこれはベッドだ!
近隣住民の方々に申し訳ないと思いつつ、寝そべるとすぐ失神した。起きると寝袋に入っている。不思議である。朝の十時までそのように眠っていた。起きると横でおじさんがペタンクの練習をしていた。


野宿はむしろ神経を使う。ビニール袋を粗雑に荷台にくくりつければ一瞬で相当残念になる。旅行者のつもりが浮浪者に早変わり、近隣住民の方々の危機感を煽る感じだ。
人々が高級パニアバッグを装備する理屈が分かった。旅行者は少なくとも旅行者なりの身なりにならなくちゃならない。洒落っ気とか以前に、そういうのは私はここなる場所に定住意思を持ちませんという宣言なのだ。


ベンチとはいえ六時間は寝た。走れる。疲労感は抜けないけれど、今後のことを考えるとこの疲れは二度と抜けない。旅行者を続ける限り足は永久に鉛である。そういうのに若干慣れつつある。世紀の根性なしのつもりだったのに、意外とやるな。道中とっとと首を吊ってあらゆる問題を強硬解決するかと思っていた。まだ走れる。

ミニストップで2リットルの麦茶を買い、荷台に縛り付けた。

六号線をモリモリ北上し土浦に着く。陸橋になり、自転車が場違いっぽくなりそうだったのでやや外れる。街道沿いに丸亀製麺があって、久々に入ってみる。受験生だったころによく食べた気がする。懐かしい。
冷やしのぶっかけの大。ちくわ天とかしわ天。普通だ。
友人から連絡があって、霞ヶ浦の湖畔あたりにいると言ったら今日中にフェリーに乗るのかと言われる。水戸まではまだ遠く、大洗はその先である。まだちょっと自信がなかった。
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うどんポエム。

六号と平行に走る道を行った。たぶん国体道路という道だ。台地らしく果樹園が多い。ところどころアップダウンはあるけれど、路側帯も凸凹がなく走りやすい。
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延々と続いている。

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少女漫画なので、「恋」の付く地名を見るとうひょ!となってしまう
嬬恋村とか恋ヶ窪とかも好きだ。すてきな感じがする。嬬恋村名産のキャベツ畑って、もしやそういうことなのか?
ペダルを踏まなきゃいけないときは、だいたいそういう下らないことを考えている。
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気がつくとあと29キロになる。下らないなりに意味はある。


水戸市が近づくと丘陵地が終わり、ウェルシアだのなんだのが増えてくる。分かち合う相手とていないのに、存分にさみしさを噛み締めようと思ってパピコを買ったりする。
しかしパピコシチリアレモン味は期待以上においしい。氷と果肉ががりっとおいしい。さみしいどころかもう一本食べれて僕はうれしい。
ただそれ自体はちょっとさみしい感じがするぞ。
結局噛み締めたことになる。
水戸市に着く。


崖の上に偕楽園が見える。雅な建物だ。
出立前に友人と会ったとき、「子どものころに偕楽園に行ったが、あれは子どもだから楽しくなかったのか、あるいは…。」みたいな話をされた。確かめてみよう。
結論から言うと無目的にぶらぶらするならまあいいんじゃないすかね、というふうである。道はきれいに整備されているし、竹林もある。
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園芸員のお姉さんが敷石の上に出てきたミミズを素手で拾い、桃の木の根元に投げていた。ベテランのおばさんに「熊手使いなよ女の子なんだから」とか言われていた。
お姉さんは黙々とミミズを握りしめている。


水戸駅から少し南に戻り、「やまの湯」に行く。連日スーパー銭湯に行っているな。日替わり定食が500円と激安だったので食べる。連日スーパー銭湯でメシ食ってるな。
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ありがとう高安。なぜサウナで見る相撲は面白いのか。


日付が変わるころに銭湯を出て快活クラブへ行く。快活だから。
初めて行ったんですけど、いままでの人生の苦しみの大半が無駄だったような気がしてくるな。特に終電過ぎにカラオケルームで寝たりしてたのは完全に無駄だった。快活クラブは足を伸ばして横になれるし、隣から残酷な天使のテーゼも聴こえてこない。代わりにAKIRA芸能山城組みたいな店内BGMが流れているのははちょっと嫌だけど。バリ島をモチーフにしているらしいが、ひどい悪夢を見そうだ。そういえばハリウッド版の劇場公開、延期されたらしいですね。
三時ごろに眠る。二日目が終わる。