大洗、アクアワールド、さんふらわあ。三日目。

快活クラブには食べ放題の朝食が付いていて、その取り合わせときたらパンとフライドポテトの二種類。アメリカの欠食児童みたいなラインナップだが、基本料金で食べられることを考えると十二分にすてきだ。しかも九時間もいて二千円ちょっとしか掛からない。今後も世話になろう。


予報は外れて雨は降らず、しかし最高気温は大台を越えて31度とひどく蒸し暑い。
大洗まで12キロといったところ、ここまで走って来れたきみなら平気だ。小一時間も掛からない。ぼんやり漕いでいると濃い潮の匂いがして、見上げると鏡面仕上げのマリンタワーがある。
港町ってこういう建物多いよな。銚子にも沼津にもあった。個人的には、沼津の「びゅうお」がばかに高層でよかった。銚子は先端部の灯台がいい。地球が丸く見えるという触れ込みである。


マリンタワー内の観光案内所で水族館の前売り券を販売している。1670円。だいたい2000円が相場だと思っていたからなんだかそそられてくる。
ここまでの道のりは平気だったとはいえ暑かった。できうるのなら涼は取りたい。平日だし人も少なかろう。行ってしまえ!
海岸線を走り抜けて、下り坂に空転する車輪がからから鳴る。個人的には山川よりやっぱり海である。太陽もいやおうなく出てきて、これはどうしても夏だ。
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……。


アクアワールドはふつうに最高だった。やたらめったらに写真を撮り、いつのまにか迷子になったりした。あまりイルカショーとかは見ないけれど、時間もあるしと思って見物すれば明らかにワンランク上である。背鰭に掴まって一緒に泳ぐまではよく見るけれど、背中に立ってサーフィンするのは初めて見た気がする。それどころか途中から出てきたアシカまでイルカに乗る。サーフィンをやる。ちょっとこれはすごいぞ。必見です。
喫茶のコーヒーも200円となんか妙に安いし、年間パスポートを持っていると100円になる。意味がわからない。フードコートでさえ職人が寿司を握ったりしている。マンボウもデカイ。
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デカイ。

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館員のお姉さんによると、コバンザメは何かに張り付いているととにかく安心できると言っていた。わかるぜその気持ち。

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エトピリカなる海鳥。僕を見るなり近寄ってきてなんか猛烈な勢いで毛繕いを始めた。しばらくすると満足していなくなった。なんだったんだ。

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「狩りから稲作へ」みたいである。

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掛け値なくてらいもなく普通に綺麗だ。

昼過ぎになりお腹が空く。せっかくだから大洗周辺をもう少し流すことにする。
住宅地の路地を縫ったり、郵便局で金を下ろしたり、そうこうするうちにマリンタワーまで戻ってくる。隣のまいわい市場に行くことにする。


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港町ではだいたい生しらす丼を食べておけば間違いない気がする。当然うまい。1100円也。ご飯の大盛はサービスだった。こういうところのおばちゃんはたいてい優しい。

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座席の前の窓に今日乗るはずのさんふらわあが入港してくる。いまだに予約していないことを思い出す。僕はフェリーなんぞは十数回乗っているから、こんなときに急いだりはしないのである。ゴールデンウィークだのではない限り、すぐに満席になるほどフェリーって狭苦しいものでもないのだ。
余裕綽々、しかし確認するとネットの予約フォームが閉じていたので、めちゃめちゃ急いでフェリーターミナルの受付に飛び込んだ。ターミナルもマリンタワー近くにある。
「まだ乗れます?」
「大丈夫ですよ」
ほら、やっぱりせわしなくする必要なんぞはなかった。僕の考えることは常に正しい。


18時の乗船時刻まであと三時間ほどあった。焦ったせいで汗をかき、陽射しはまだ強い。
ところで右手の甲には水族館で捺してもらった不可視のスタンプがある。ファイトクラブみたいなやり方だけれど、ともかく再入場が可能である。余裕があるってすばらしい。


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道中、さきほど鳥居の前だけ過ぎた磯前神社を詣でる。

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うん。


汗でスタンプが流れていたらどうしようと心配だったがかろうじて見えた。今後はもっと意識しておこう。
本日二度目の水族館をゆったり眺め、学術展示の骨の前でうとうとする。これは付加価値税なみのぜいたく品だ。
一方隣のおじさんは不機嫌そうに着信を受けている。

「もしもしじゃねえよ。俺探すの諦めたから。好きに見て回ればいい。俺は骨の前のソファーに座ってるから。勝手にしろ」

僕はハラハラする。ぜいたくさせてくれ。

しかし姪っ子らしき人物が現れるとオッサンの目尻は瞬時にデロデロべちゃべちゃにとろけてしまった。

「魚なんてのはな、見るもんじゃねえ。食べるもんだ」

こういうのって愚劣なのかもしれないが、しかし実に幸福そうだ。いいことだ。


水族館を四時半ころに出て、乗船の支度を始める。フェリーのレストランでする食事はやはり情緒ではあるが、しかし乗船前に近くのスーパーで晩餐を物色するのもまた情緒である。

大洗にスーパーマーケットは少ない。マリンタワーの前の通りにエコスなるスーパーがあって、そこくらいなのかと思う。正面に「エコス前」というバス停まであるくらいだ。
あるいは地元の商店を回るのも楽しいと思う。まいわい市場にも直売所のようなのがあって、19時までは開いているから、夕方便に乗るなら間に合う。
そういえば市場の横にドデカイスーパーが建設途中であったな。内装を整えてそろそろ完成しそうだったから、フェリーに乗るならそちらも便利になるとは思う。


さて、自転車はそのままでも乗船できるが二千円弱かかる。輪行袋に詰めると手荷物扱いの追加料金なしで乗れる。
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JRみたいにサイズ規定があるわけじゃないから、荷台は付けたままにしてしまう。泥除けも飛び出ているが、特に何も言われなかった。それどころかにこやかに手荷物として預かってくれる。雑にパッキングしたクソほど重たい自転車を人に持たせるのはなんだか非常に申し訳ない。

モンベル輪行袋、五千円もする高級品だけれど値段ぶんの良さはある。雑に扱っても破れないし、びよんびよん伸びるし、他社製品とはバラし方が違って簡単らしい。僕は三十分掛かるけど…。

乗船。これといって難しいことはないが、大洗港で自転車等をバラすおつもりなら新ターミナルじゃなく古くさいほうの建物の前でバラすといい。そっちのほうが船に近いです。


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重大な違いだ。
船内の冷蔵庫、というか冷蔵ロッカーは有料である。毛ガニとかを持ち帰るにはいいが、麦酒を冷やしたりには向かない。かといって11時を過ぎると売店は閉まるし保安上の理由とかで酒類の自販機も閉まる。依存症の方は時間に気を配るべし。

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大洗の地酒は月の井酒造。ワンカップがあるのはいい。日本酒党でもない限り、気楽に一升瓶は買いにくい。
地のものを飲み食いせよ、みたいなことは開高健が絶対どこかで言っている。少なくとも、その地の女とは金を出してでも寝ろとは言っていた。地球はグラスのふちを回るとかだった気がする。エッチな御大だ。
月の井、後味にへんなものがなくって、甘過ぎず辛すぎず、なんだかとてもバランスがいい気がする。僕は好きです。追加でもう一本飲んでしまった。おいしいぞ。

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まいわい市場で買ったまんじゅうを一個食べる。もう一個は朝食用である。ひもじいぜ。
風呂に入ってからはすることもなし、酔いと疲れに任せて眠る。三日目は船内にて終わる。


ところで。
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最終章二話は面白かったですね。

野宿、二日目、水戸。

二時間しか眠れなかったのである。徹夜明けにも関わらず、一日中走り回って、交感神経がオフに切り替わらなくなってしまった。無駄に思考はクリアだが、いつまでもクリアではない。むしろクリアになった分だけ問題が直視される。銭湯の閉店時間は午前一時。締め出されてしまう。
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定食を食べたりして寝れるかと思ったが、ただただ獅子唐がおいしいだけであった。観念して、サウナと水風呂を行き来するやつをやる。これはよくマリファナ的な多幸感であると言うけれど、徹夜明けにマリファナなんかやっちゃダメだ。徹夜明けでなくてもダメです。
ゴロゴロしながらじっと天井を眺めたり、日付が変わって同じ映像を何度も垂れ流すようになった地方局の番組を眺めたり、気がつくと館内放送に蛍が光る。
どうしようもないのである。
限界まで走ってみよう。


霧が出ていた。うつむいた街灯の視線が円柱状にぼやけて橙、彼らは等間隔でバイパスの傍らに立ちつくしている。
寝付けないとはいえ休んではいたから、多少は行けそうである。夜走るのはいい。見えない路面は怖いけれど、雑に表現すれば雰囲気がある。無理にやるよりはそれでいい。
24時間営業のリサイクルショップとかを横目に過ぎる。暗闇に看板がぼうっと光る。人の影はなく、生き物の影もなく、ただ連なるトラックだけが積み荷を運ぶ。追い抜かれて後ろ姿を見送る。少なくとも九割のトラックには運転手がいるだろう。残りは知らぬ。
途中、どうにも動けなくなって、ほどよいうつむき加減の街灯に寄りかかる。潰れたラーメン屋の前で安っぽいメロンソーダを飲んだりする。
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夜の街道の定義そのものみたくなっていたが、どう考えても水戸までは届かない。朝まで走り続けるのも厳しいだろう。この二日間で三時間しか眠ってない。出発前日に徹夜なんかするからいけない。

ひとまず牛久のあたりに西友があったのでそこを目指す。霧はドンドコ深まっていく。満月さえけむったくなって古い硬貨のように見える。
どうにかこうにかたどり着いた西友で半額の焼き鳥にアルコールと、安かったからズボンとポロシャツも買って、近くにある公園に行く。野宿である。
シングルベッドくらいのベンチがあって、薄目に宵闇の助けを借りればすのこベッドに見えなくもない。ストロングなゼロを飲み干せば、やはりこれはベッドだ!
近隣住民の方々に申し訳ないと思いつつ、寝そべるとすぐ失神した。起きると寝袋に入っている。不思議である。朝の十時までそのように眠っていた。起きると横でおじさんがペタンクの練習をしていた。


野宿はむしろ神経を使う。ビニール袋を粗雑に荷台にくくりつければ一瞬で相当残念になる。旅行者のつもりが浮浪者に早変わり、近隣住民の方々の危機感を煽る感じだ。
人々が高級パニアバッグを装備する理屈が分かった。旅行者は少なくとも旅行者なりの身なりにならなくちゃならない。洒落っ気とか以前に、そういうのは私はここなる場所に定住意思を持ちませんという宣言なのだ。


ベンチとはいえ六時間は寝た。走れる。疲労感は抜けないけれど、今後のことを考えるとこの疲れは二度と抜けない。旅行者を続ける限り足は永久に鉛である。そういうのに若干慣れつつある。世紀の根性なしのつもりだったのに、意外とやるな。道中とっとと首を吊ってあらゆる問題を強硬解決するかと思っていた。まだ走れる。

ミニストップで2リットルの麦茶を買い、荷台に縛り付けた。

六号線をモリモリ北上し土浦に着く。陸橋になり、自転車が場違いっぽくなりそうだったのでやや外れる。街道沿いに丸亀製麺があって、久々に入ってみる。受験生だったころによく食べた気がする。懐かしい。
冷やしのぶっかけの大。ちくわ天とかしわ天。普通だ。
友人から連絡があって、霞ヶ浦の湖畔あたりにいると言ったら今日中にフェリーに乗るのかと言われる。水戸まではまだ遠く、大洗はその先である。まだちょっと自信がなかった。
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うどんポエム。

六号と平行に走る道を行った。たぶん国体道路という道だ。台地らしく果樹園が多い。ところどころアップダウンはあるけれど、路側帯も凸凹がなく走りやすい。
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延々と続いている。

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少女漫画なので、「恋」の付く地名を見るとうひょ!となってしまう
嬬恋村とか恋ヶ窪とかも好きだ。すてきな感じがする。嬬恋村名産のキャベツ畑って、もしやそういうことなのか?
ペダルを踏まなきゃいけないときは、だいたいそういう下らないことを考えている。
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気がつくとあと29キロになる。下らないなりに意味はある。


水戸市が近づくと丘陵地が終わり、ウェルシアだのなんだのが増えてくる。分かち合う相手とていないのに、存分にさみしさを噛み締めようと思ってパピコを買ったりする。
しかしパピコシチリアレモン味は期待以上においしい。氷と果肉ががりっとおいしい。さみしいどころかもう一本食べれて僕はうれしい。
ただそれ自体はちょっとさみしい感じがするぞ。
結局噛み締めたことになる。
水戸市に着く。


崖の上に偕楽園が見える。雅な建物だ。
出立前に友人と会ったとき、「子どものころに偕楽園に行ったが、あれは子どもだから楽しくなかったのか、あるいは…。」みたいな話をされた。確かめてみよう。
結論から言うと無目的にぶらぶらするならまあいいんじゃないすかね、というふうである。道はきれいに整備されているし、竹林もある。
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園芸員のお姉さんが敷石の上に出てきたミミズを素手で拾い、桃の木の根元に投げていた。ベテランのおばさんに「熊手使いなよ女の子なんだから」とか言われていた。
お姉さんは黙々とミミズを握りしめている。


水戸駅から少し南に戻り、「やまの湯」に行く。連日スーパー銭湯に行っているな。日替わり定食が500円と激安だったので食べる。連日スーパー銭湯でメシ食ってるな。
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ありがとう高安。なぜサウナで見る相撲は面白いのか。


日付が変わるころに銭湯を出て快活クラブへ行く。快活だから。
初めて行ったんですけど、いままでの人生の苦しみの大半が無駄だったような気がしてくるな。特に終電過ぎにカラオケルームで寝たりしてたのは完全に無駄だった。快活クラブは足を伸ばして横になれるし、隣から残酷な天使のテーゼも聴こえてこない。代わりにAKIRA芸能山城組みたいな店内BGMが流れているのははちょっと嫌だけど。バリ島をモチーフにしているらしいが、ひどい悪夢を見そうだ。そういえばハリウッド版の劇場公開、延期されたらしいですね。
三時ごろに眠る。二日目が終わる。

甲州街道、国道六号、常磐線列車。

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 出掛けに聴いた「甲州街道はもう夏なのさ」「くすりをたくさん」の二曲が頭の中をぐるぐるしている。くすりをたくさんよりどりみどり、くすりをたくさん飲んだら終わり。ぱらっぱっぱっぱっぱっぱ。甲州街道は梅雨であった。


ランタンパレード ''甲州街道はもう夏なのさ'' 7inch version


大貫妙子 - くすりをたくさん

 

雑に準備を終えて出発したのは10時手前。あまり適当に荷造りをやったのでTシャツが二枚しかない。そのくせタオルは大小合わせて七枚も取り揃えている。さすがに道中買うつもりである。

 

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生憎の空模様だけれどピース缶の青空よりはいい。去年の日記を覗いてみたら平気で三十度を超えていた。Tシャツ買う前に死んでしまう。ここ数日は曇り空にせよ雨も降らないという予報だから、諦めて前に進みましょう。

 

さて、今回取り扱ってみたい人類の二分法は「行き詰まったときに進む方角」ということです。つまり北へ行くか南へ行くか。この話を人にしたとき、いや俺はニシエヒガシエどうのこうの、まぜ返されたけれど東西は奔走するものであって逃走するものではない。どうなんでしょう?

とかく僕は果てなく行き詰まっており、なおかつ当然、北のほうへ進む一派に所属している。そして手元にはママチャリよりはまともな自転車があったりするものだから、とかくの目的地は稚内宗谷岬ということです。安直!

 

ところで僕の人生は排水溝じみてすぐ行き詰まるから、例年北海道には行っているのだった。

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ぐにゃり。

 

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西新宿のあたり、都庁とかそれ関係のデケエビルです。サラバTOKIO!みたいな気持ちになるために撮ってみたがべつにそういうふうにもならなかった。しかしデカイものはそれだけでおもしろい。たくさん生えてるというところもいい。

 

皇居のあたりで甲州街道を離れたが、頭の中ではまだこだましている。湿度が高いせいで汗がみずくである。ぎんぎんぎらぎらではないにせよ、やっぱり夏なのか。

 

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山ほど川を越え、次第に雲がちぎれてゆくのがわかる。浅草近辺で国道六号に乗り入れて、あとはおおむねこれに沿ってゆくだけでいい。右下にとおく見える街は松戸である。千代田線で忘れ物をするとここに届き、スーツケースだの教科書だのバドミントンのラケットだの定期入れなどを取り戻しに仕方なく人が集まる。ただそれゆえに発展した街だと思っていたけれど、この景色を見るとわりにわるくない感じがする。遺失物収集センターをここに置きたくなる気持ちがわかった。

 

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ぼんやり走るから見落としているかもしれないが、荒川―江戸川間で初めて青地白抜きの水戸の文字を見る。ウッってなるな。本気の長距離ライドというやつをやるのは初めてである。何も考えずに出てきてしまったが、数字で見るとやや重苦しい。だからと言って引き返しても仕方なし、ホットヨガでヨガパワーの研鑽を積んだ母上は攻撃力が二倍になったり関節が自在に伸びたりするはずだ。力ではかなわぬ。諦めて進みましょう。

 

 

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16時に手賀沼まで至る。松戸隧道を越えたあたりから道は次第に丘陵的アップダウンが緩やかに増えてきて、ロードサイドの店舗もヤマダ電機とかに成り代わる。広い敷地のスーパーマーケットで肉団子を買い、沼のほとりでムシャムシャ食べたりした。朝から何も食べていなかったし、前夜は徹夜だったから限界が来ていたのである。走り続けると意外とおなかは減らない。前夜についてはなんとなく見始めた空耳アワーが面白かったりして寝付けなかった。


昔の空耳 その0372

個人的なお気に入りです。

 

休む場所について考え始める。だいたい検討はつく。全身はぐちゃぐちゃどろどろだし風呂に入る以外ない。そうなると前日の徹夜もそう悪い判断ではなくって、休憩所に入れば瞬時に眠れるはずだし、それから6時間くらい眠れば深夜料金抜きでまた走り出せるはずである。24時間の銭湯は泊まるとだいたい三千円くらいかかるが、そうでない0時に閉まるようなところなら千円から足は出ない。

調べて取手にちょうどよろしいところがあった。これで今日の目的地は決まり、あとは何も考えず漕ぐばかりでよくなる。

 

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手賀沼のクソデカイ鉄塔。鉄塔を見るとなんだかどきどきする。山の尾根とかに連なっていたりするとなおいい。

 

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一日で茨城にまで侵入できるとは思っていなかった。思ったよりもやるようである。とはいえあと70キロ弱ある。きついな…。

しかしあれだ、松戸だの我孫子だの取手だの、千代田線で直通で行けるような場所を走り回っているようだ。昔に通学で使っていたので、なんだか微妙な気持ちになる。

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水戸73キロの看板のすぐ横の景色。なんだかずいぶん遠くまで来たようである。

取手駅前の西友に立ち寄ったりなどしたのち、ひいこら「湯楽の里 取手店」

にたどり着いて、身体を洗い、寝たい。

ヌ、

 

 

あらすじ

妹が先に就職して三ヶ月が経過した。
おそらくそのせいだと思うのだが、僕が家計に対して非協力的な態度を取っていることに家族もようやく気がつき始めたようである。
責めるでもなく、詰るでもなく、母上は単純かつ核心を突き刺す疑問をぶつけてくる。多くの母親はそういった性質を持つ。「あなたはおうちにお金を入れていないのではありませんか」
一方の僕は現在、特に家庭内において失語症チンパンジー以上の語彙力を持っていなかったので、ごく少ないいくつかの言葉の組み合わせでコミュニケーションを達成しなければならないのだ。
「オアア。ウウ……」
僕の鳴き声に「なるほど」と母上は頷いて、日課ホットヨガ教室に出掛けた。母親という生き物は手加減もまたじょうずである。
ともかくこれが先日の出来事だった。

さて。
手元にあるわずかばかりの資金を上納してお茶を濁すことも可能だったが、僕の流す雀の涙が潤すのはホットヨガスタジオLAVAのバランスシートばかりであるし、それによって中年女性のウエストを五ミリほっそりさせるよりは、僕はいっそ飛び出してしまえ。

そういうふうにして始まります。